Travesía―曲解説(7)

「Travesía」の7曲目「Voice of the sun」について。大竹弘行氏の2011年2月に作った想いの詰まったオリジナル曲です。大竹氏自身の言葉による曲解説です。
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曲は何かに導かれるように割とすんなり出来たのですが、作曲以上に曲のタイトルをどうするか悩みました。タイトルでその曲のイメージがある程度決まってしまうからです。タイトルは、曲と自分自身との間にある距離感を表す印のようなものかもしれません。

そんな時、大竹にとって忘れられない2008年に急逝されたソプラノ歌手Uさんのことが思い浮かびました。「そうだ、まるで太陽のような明るいUさんの人柄・歌声からイメージして太陽の声にしよう!」この曲がUさんとつながった瞬間でした。

Uさんと共演した2007年6月に山手ベーリックホールで行った、最初にして最後のコンサートは大竹のミュージシャンとしての転機となりました。メンバーは、大竹をUさんと引き合わせてくれたピアノのゴルさん(近藤滋さん)とUさんを合わせたTrio編成。大竹とゴルさんはジャズ、そしてUさんはクラシックのオペラ。お互いの専門の音楽は(この言い方はあまり好きではありませんが)ジャンルが違い、しかも、演奏する曲はUさんが歌いたかったというジャズ・スタンダード。ジャズとクラシックのコラボレーションという企画。当時は準備をどうしたらいいのか相当悩みました。きれいに歌詞を歌い上げるクラシックの要素と、ジャズの即興的な要素をうまくブレンドできたらいいかもしれない。。。ジャズには大抵譜面が無くても、お互い知っている曲であればその場で演奏できますが、ある程度譜面はしっかりと作った方が良いかもしれないなと思い、Uさんの歌う3曲をアレンジすることになりました。

いよいよリハの日、渋谷のスタジオでUさんと初めて会いました。緊張しましたが、Uさんの関西特有のノリの良さ・おしゃべりにすっかり打ち解け、大竹のアレンジした曲を初めて合わせた時、「歌いやすい!気持ちよかった!」と言ってくれたことは忘れられません。今まで苦労して準備した甲斐がありました。

本番ではUさんはマイクを使わず、オペラの発声法でジャズを歌う。ピアノとベースも生音。完全にアコースティックなセッティング。気持ちよかったです。でも、時間というものは刹那。ライブの2ヶ月程前から譜面を書いたり、アレンジを考えたり、時間をたくさん掛けて準備しましたが、いざ本番となると、あっという間に時間が経ち、コンサートが終わってしまってしまいました。もう最後の曲のエンディング近くに差し掛かるとコンサートがこのまま終わらないでほしい!という思いで一杯になり、最後の和音を伸ばすところでは、もう切なくて堪らなくなってしまいました。手作り感があり、愛があり、聴いている方々の笑顔があり、本当に素敵で忘れられない時間でした。

2008年4月、Uさんが急逝されたと連絡をもらった時は言葉が出ず、出るのは溜息ばかり。Uさんの時間は止まってしまったのに、僕は掃除したり、洗濯したり、宅急便の受け取りをしたりなど、日常を生きていて時間が流れているという、何だか矛盾したような複雑な感覚。漢字学の白川静さんの本によると、「真」という字は、元になった古代文字を見ると、人が倒れた形を示していて、人の死を意味している。亡くなった人達は、僕等の世界ではこれ以上変化をしない、永遠のもの、真の存在ということで「まこと」の意味となったそうです。この日ほど「真実」とはこういうことなんだと突きつけられた日はありません。

昨年の震災後からは大竹自身の希望の曲となり、頭の中にずっとこの曲が流れていました。よく一人でこの曲をベースで弾いて、心の落ち着きを取り戻すようにしていたものです。または自分の魂を救うために弾いていたと言っていいかもしれません。とにかく音楽を続けていて良かった。明るい曲調なのに、そこには悲しみや慈しみのトーンもあるかもしれない。と最近思うようになりました。

今後も大事に演奏し続けていきたい曲です。(大竹)
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