Travesía―曲解説(10)

「Travesía」の10曲目「川辺にて」(ribera)について。秋山の2011年10月に作ったオリジナル曲です。コンテンポラリーフォルクローレでいうプラタ流域の音楽が日本でもこの5年くらいで随分情報量が増えてきて、またそれに連れて受け入れられてきています。魅力的なメロディーとリズム、そして独特の静謐感が魅力です。そういう川辺の音楽への憧憬を自分なりに音にしてみたのがこの曲です。単に憧憬を映すのではなく、アイデンテティーというか日本的な質感を重ねようと思いました。2011年3月11日の東日本大震災は大きな悲しみと、これからの日本を再考すべき課題を残していきました。なにをどこで間違えたのでしょう。それとも、何も間違えていないのでしょうか。人々は感情的になり敵味方の色分けをしたがっています。なかなか答えは出ません。でも被災地で生活に窮している人たちに何をすべきかはもっとシンプルに迅速に対応できることなのではないでしょうか。
もう都会では水を間近に感じながら川辺を歩いて家に帰ったり、水辺に腰を下ろして時間を過ごすことが難しいですね。子供の頃はもっと身近に川があったように思います。過去を振り返りながら、将来に想いを馳せながら川辺を歩く、物思いにふける静かな時間が川辺にはきっとある。ギターが時を刻みます。尚美のシンプルな言葉『届けて欲しい 涙のつぶ』が心にしみ込んできます。大竹のアルコのリードの暖かい音色が心を穏やかにしてくれます。
アルゼンチンのコンテンポラリーフォルクローレの旗手の一人Carlos Aguirreが2012年2月発表したCD作品「Orillania」(フォルクローレという枠ではなく南米音楽の傑作だと思います。)が話題になりました。OrillaniaとはOrilla(川辺、岸辺)という語を基にした造語だそうですが、これに先立って「ribera」と、似た言葉の曲を作ったのは偶然ではありますが、なんだかちょっと嬉しい。(秋山)